帰納・演繹・アブダクション

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    今日のゼミでは帰納・演繹、アブダクション付いて学びました。

     

     この3つの違いについて詳しく説明したものはいくつかありますが、その中でわかりやすい(理解しやすい)ものをいくつか紹介します。

     

     まず、次の<6924>瀬名秀明・橋本敬・梅田聡(2006)『境界知のダイナミズム』, 編,岩波書店, 東京都, pp. 272p.では、
       データから法則を導くのは「帰納」induction
       ある前提から次を導くのが「演繹」deduction
       所与のデータから最善の説明を出すのが「アブダクション」abduction
                                  だと説明しています。

     

    また井上(2002)は、アブダクションについて、多くの事実から一般則を導く、帰納的な方法だが、次のようなスタイルだと述べています。
       驚くべき事実Cがある。
       そこにAを当てはめるとうまく説明できる。
       つまり、AならばCである。
    <4419>井上真(2002)『環境学の技法』,東京大学出版会,284p.(デジタル化)

     

     一方、戸田山(2012)によれば、帰納法では情報が増えるが、蓋然的(導かれた理論が必ずしも真理ではない可能性がある)であると述べています。しかし、新しいことを主張するには適した方法である、としています。
    <8883>戸田山和久(2012)『「科学的思考」のレッスン―学校で教えてくれないサイエンス』,NHK出版,299p.

     

     そして帰納と演繹についての関係を説明しているものでは、次の津田の解説が解りやすいと思います。医学について書かれたものですが、科学全般に拡張して考えることができます。
    <9047>津田敏秀(2011)『医学と仮説 - 原因と結果の科学を考える』,岩波書店,118p.


    北海道庁が提案する知床基本条例を「遺産」にしないために

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      今夏、北海道の知床半島は、世界遺産登録から10周年を迎えている。知床は原生自然に恵まれ、生物多様性と海氷の影響受けた特異な生態系の価値が評価されて2005年に世界遺産に登録された。もちろんそれ以前から知床の自然は評価され、1964年に国立公園に指定されている。知床横断道路建設や森林伐採問題を乗り越えて、知床100平方メートル運動など、地域の関係者の地道な保全活動によってその価値を維持してきた。

      こうした記念すべき年に、地元の北海道庁が「知床基本条例」を提案している。もともと北海道知事の発意によるものだが、年度内に制定を目指して動きが活発化してきた。条例の制定自体は、知床の遺産価値の保全や将来に向けた指針となるすばらしい発想であり、それに反対する関係者はいないだろう。知床だけに関係する条例であっても、知床は北海道民にとっての誇りであり、自慢の自然資産である。当然北海道庁が関わって然るべきだ。

      そのため北海道庁は、道の「環境審議会」での審議を優先して条例を制定することを念頭に置いていた。北海道にある自然環境のことなので当然という判断はあるだろう。しかし、それは札幌で開かれる審議会が議論の中心であり、そこには「知床という地域の課題解決や将来のため」という条例の趣旨とはズレがある。

      また、知床には前述した開発問題を乗り越えてきた経験があり、地域で知床の自然を管理してきた自負も持っている。地元自治体が出資してつくられた知床財団が、野生生物や日々の管理も担っている、自然環境保全では先進的な地域である。さらに、最近では「エコツーリズム戦略」が地元の努力で策定され、関係者の自由な提案に基づき、保全と利用のバランスを取る仕組みもできた。保全関係者、行政、さらに観光事業者が同じテーブルについて問題解決を目指す、他に例のない地域共同管理の仕組みである。つまり地域で知床の自然環境の利用と保全を進める仕組みができている。

      一方、遺産登録時には大きな役割を果たし、ダーバンで行われた会議にも知事が参加した北海道は、世界自然遺産登録後は、国立公園、世界遺産ということで環境省や林野庁が管理の主役となり、役割が相対的に小さくなっている現状もある。日々の管理を行う斜里町・羅臼町など地元関係者と国の間に立って、なかなか役割を見いだせないでいる。

      しかし、北海道庁も知床世界自然遺産の管理者の一員であり、周辺の自然環境との関わりや海域の管理を考えれば、役割は決して小さくはない。提案されている知床基本条例の制定が契機となって、改めて北海道庁の関わりが増えることは、誰もが歓迎するところだ。そのためにも、北海道が一方的に条例を提案するのではなく、地域にある仕組みや地域関係者の意思を尊重し、知床とそこに関わる関係者の将来にとって幸せな条例となるように努力すべきである。せっかくの条例を、決めただけの「遺産」にしないためにも、条例の制定という結果ではなく、そのプロセスから地域との共同管理を意識して進めることが重要だ。それは北海道庁がもう一度、知床世界自然遺産の管理者の一員として主役を務めるためのステップでもあるはずだ。

       

      まちづくり活動の参考になる映画

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         まちづくり活動では、多様な意見を持つ関係者が集まって議論する会議や打ち合わせが多い。

         以前は、行政が集めた委員会や協議会で、これも行政が依頼した「学識経験者」が司会を務め、何とはなしに進められてしまうことが多かった。そこでは議論や建設的な意見交換ではなく、だいたい決まっている結論にたどり着き、その際にお互いが何となく納得できることが重要だった。

         しかし最近は、結論が決まっていない設定の会議や、アイディア出しの会議も増え、参加者が参加する余地が増えてきたことを実感する。こうした場面で、その場に集まったメンバーが臨時のチームやグループを結成して解決案の創出に取り組むことが多い。そのメンバーは多様で、職場や学校のような仲間でつくる同質的なチームとは質が異なる。

         そこでチーム活動、グループワークの参考になる良い映画を紹介したい。少々古い映画だが、「12人の優しい日本人」だ。陪審員の話し合いが素材となっている映画で。。。。。

          いや、ストーリーを言うのはよそう。これから映画を観るのだから無粋だからだ。ただ、三谷幸喜の作品なので十分楽しんで観ることができるとだけ記しておきたい。

         では、後味が良い地域づくり活動を期待して。

        まちづくりセミナーで受講料をもらう理由

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           9月から今年も北の観光まちづくりリーダー養成セミナーが始まった。

           7年目となるこのセミナーは、北海道庁が主体となって平成19年から始まった。いくつかの特徴があるセミナーだが、その中でも受講料はよく話題になる。実は、行政が開催主体のこの種のセミナーでは授業料を取らないことが一般的だ。まちづくりのような公共的要素のある活動の支援は、税金で、つまり公的に支援する必要があるという暗黙の了解からだろう。

           しかし、このセミナーは最初から受講料をとって運営してきた。それには理由がある。

           受講料をもらえば、受講生も緊張して望むし、元を取ろうとして熱心に参加するだろうという前提がある。また、私たち開催主体も受講料や期待に応えるセミナーでありたいと思っている。受講料をいただいているから、立派なセミナーをするいう説明には大いに納得できるからだ。しかし、お金に見合う授業をするというのでは不十分だ。なぜなら、まちづくりセミナーの受講生はお客ではないからだ。

           ここでまちづくりセミナーのミッションに立ち返ってみたい。このセミナーは、地域のまちづくり現場に、チームでイノベーションを起こせる人を送り出す仕組みである。つまりミッションは、「まちづくりを、義務的な仕事ではなく、自分の楽しみとして取り組み、そこから地域や人のためになる楽しい成果を生み出す、新しいまちづくり人材を育ててること」だ。

           そのミッション実現に必要だから受講料をいただいているのである。そのためにはネットワークやチーム運営をする能力を身につける必要があり、仲間を広げる必要もある。そのために必要な投資だ。その点で、受講生はお客ではなく、ミッション実現のための仲間である。彼らの投資を有効にする支援をするのがセミナーの講師であり主催者だ。

           このように受講生を、チームによるまちづくりに共感してもらえる仲間だと認識することが重要だ。そして相手をリスペクトする。 そこから、まちづくりセミナーで一方的な授業はしてはいけないということも見えてくる。


          分かりやすさが「すべて」ではない

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             私事だが、膝の手術で入院し、すっかり「病院の人」になっている。手術後はさっそくリハビリ始まり、元の状態に戻れるような訓練が続く。手術や入院で弱った筋力をアップするには、「適度な負荷では無理で、普段以上に負荷をかける」必要がある。

             実は頭もそれと同じで、普段と同じ負荷をかけていては伸びない。めちゃくちゃではいけないが、ある程度難しいことをぐいぐい考えてみることで、思考力は高まる。

             さて、大学で期末に行われる「授業アンケート」では、必ず「わかりやすさ」を問う設問がある。当然わかりやすいという回答を教員たちは期待するが、わかりやすさが必ずしも「理解」や能力アップにはつながらない。

             もちろん、極力、わかりやすく授業を行いたいが、教えるテーマの事前理解や内容によって、必ずしも全員が「わかりやすいねえ!」にはならないことは容易に想像できる。

             その様な時、学生はアンケートに「わかりにくい」と書いてもらえば良いのだが、それだけでよいのだろうか。それでは何も生産的な話にはならないのではなかろうか。

             ではどうする?それだけではなく、「自分が教師だったらどう教えるか?」という自問をしてみてはどうか。「自分が担当教員だったら、授業をこうして、こんな説明をする」を考えてみるのだ。授業終了後でもかまわないし、わからない授業の最中でも良い。

             そこから当事者意識が生まれ、自分だったらどうする、もし自分がするのだったらという意識が育つ。そして、わかりやすく説明しようとすれば、当然内容が理解できていないといけないというシンプルな「法則」で、内容の理解自体が深まるだろう。

             自分で自分に教え込むこともできる。教師が教えるのが映えただという批判をするだけではなく、自分が成り代わってみたらそうするかは、世界を広げてくれるだろう。


            「夕鶴」から考える観光まちづくり

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               夢中で観光まちづくり(ほぼ=地域づくり)をしている関係者にはあまり関係のない問題なのだが、時々「まちづくりっていったい何なんでしょうか?」と問われることがある。大学や大学院では、ものごとの意味を説明する場面があるので、「それって何」は重要なことが多い。しかし、まちづくりには多様な意味が込められており、合意できそうなものを今まで見たことはない。

               ただそう言ってしまっては身もふたもないので、受け入れられそうな定義として私が用いているのは、「地域関係者が望ましいと考える地域を実現するために、地域の問題を観光という手段を用いて解決するための活動」である。ただしこれでも、ダイナミックな観光まちづくりの躍動感が表せないという問題点は残る。

               一方、観光まちづくりのプロセスが複雑で、いろいろな参加者が参加するという問題点もある。そのことが悪いのではなく、複雑で説明しにくいということだ。このプロセスの複雑さと、参加者の多様さは若干意味が違うが、ここではプロセスの複雑さを単純化し、わかりやすく説明するも工夫を紹介したい。

               その工夫とは、まちづくりをモデルで説明することである。モデルとは、あるできごとを抽象化することで現実を単純化し、その本質を見える化することである。まちづくりのプロセスを共有しやすくする。

               そのひとつの例として紹介するのが「まちづくり夕鶴モデル」である。これは著者らが考案した「観光の関係性モデル」を元に考案している。図を見ながら説明しよう。



              上記の「中間システム」を含むモデルは、敷田 麻実・木野 聡子・森重 昌之(2009)「観光地域ガバナンスにおける関係性モデルと中間システムの分析−北海道浜中町・霧多布湿原トラストの事例から−」,『地域政策研究』,(7),pp. 65-72pから転載し一部改変し作成した

               戯曲「夕鶴」は「鶴女房」を題材として作成された木下順二作の作品である。内容は原典を当たって頂きたいが、多くの日本人が知っている昔話、「つるの恩がえし」だと考えてもらって良い。

               話は、鶴を助けた「与ひょう」の下へ鶴の化身の「つう」が現れて千羽織り(美しい織物)を織ることから始まる。やがてその織物が都で高値で売れると、与ひょうはつうに「増産」を迫り、挙げ句の果てに生産現場を覗いて関係を破綻させてしまう。しかしその途中には、欲はあるのだが気弱な「運ず」と強欲な「惣ど」が、マーケット(市場)関係者として関わり、与ひょうをそそのかしていた。



               ここから描けるのは、一途な地域関係者が販売による利益の魅力から、地域資源を酷使して破綻させてしまう構図だ。しかし、せっかく商品化した地域資源(織物)が市場で販売できなければ、与ひょうはつうと豊かな暮らしができない。与ひょうの「金があれば・・できるから・・・・・」というセリフは切実である。それはマーケットの影響は単純に悪だと決め付けられない現実を描いている。


               結論はいかにマーケットとうまく付き合うか、につきるが、その関係をモデルとして描いたのがこの図である。観光地域づくりは、地域の観光資源を効果的に用いて、市場、地域外から利益を得ることで街を豊かにすることだが、そこに、良い悪いで議論できないマネジメントの問題を指摘することができる。

                

               

              怪説3C、SWOT分析

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                 難しい概念を理解しようと思うときには、その概念を、何か身近な、体験済みのことに入れ替えてみることがお勧めである。

                 関わっている「北の観光まちづくりリーダー養成セミナー」では、日常生活で使うことが少ない概念である「マーケティング」についてを受講生に学んでもらうが、そこで出てくる3CやSWOT分析についてそれを応用してみたい。         
                         

                 


                 「3C」はマーケティング分野で必ず出てくる環境分析ツールである。この3つのCは、Customer(顧客分析), Competitor(競合分析), Company(自社分析), Channel(流通分析) の略である(4Cということもある。その場合にはChannel(流通分析)が加わる)。これだけだと一見何のことかわからないが、要は「自分の回りの状況を把握する」ための整理ツールで、その際に把握する分野を整理したものに過ぎない。しかし日常生活ではこんな面倒くさいことをしないので、3Cだ、4Cだといわれれば、何かよくわからない難しいことになってしまう。
                         
                 そこで、理解のための例示をしてみよう。この図は、お目当ての女性(逆に男性としても同じ)にアプローチする際のライバル男性との関係を表すツールとして3Cの仕組みを使っている。一般の3C分析でCompanyといわれる自社はここでは「自分」である。そして、Customerはお目当ての女性,
                そしてCompetitorはライバル男性(競合相手)と考えてみればよい。その結果それぞれの持つメリット・デメリットが明確に描ける。そしてこの、「三角関係」に気付く。        

                 

                   
                 次に、これを応用?して、SWOT分析を試みてみたい。SWOT分析は、3C分析のようにメリットやデメリットが誰に帰属しているかを明確に示すのではない。、その代わり自社(この場合自分)の強み、弱み、そして自社に対する脅威、機会(チャンス)をうまく整理してくれる。そして、クロスSWOTでは、自分がどのように振る舞えばよいかの戦略案を提案してくれる仕組みである。         

                 




                 このように3CやSWOTは、状況を把握する際に使える整理ツールだと考えればよい。そうすれば、自分の長所と短所だけではなく、自分の置かれた環境や課題もわかって、対策を立てて何とかしようという気にもなる。


                 ということで、おふざけ感もあるが、身近なものに例えて、または身近なものに応用してみることは、当事者意識を高めるので、お勧めである。


                Iさんからの相談

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                   地域づくりに関わるIさんから相談があった。話は「一体誰のために仕事をしているのかわからない」という内容だった。メールではめずらしく、長めの返事を書いた。



                  Iさん
                   すぐに返事をと思ったのですが、なかなか書くことができませんでした。その理由は、実は私もいつもその様なことを考えているからです。しかし、それを考え始めると仕事が進まなくなりますし、それでなくとも忙しいのに、仕事に身が入らず、ミスが多くなります。ただ、それでも考えてしまうのは、そう簡単に割り切れないからではないかと最近考えるようになりました。
                   
                   Iさんの悩みは、仕事をしている自分に一貫した思いや意識が不足しているのではないかということではないでしょうか(勝手な思い込みだったらすいません)。確かに、仕事上の信念や堅い意志があれば、地域のためにやっているのだという姿勢になり、周りの人にも、「あの人はすばらしい、地域のためを思って日夜仕事に励んでいる」となるでしょう。

                   しかし一方で、「自分は地域のために仕事している」と正面から宣言してはばからない人を見ると、それはそれで困った人であると思えます。地域のためということは、特定の地域だけを優先することで、逆にその地域以外の人や社会を犠牲にしかねないと思うので、私はどうも「うさん臭さ」を感じてしまいます。

                   それに、どんな仕事であれ、自分の生活のためや自分が満足を得るためにしていないと言い切れる仕事はないでしょう。何らかのメリットを仕事から得ているのであれば、それは自分のためであると言えます。いくら地域づくりに邁進していても、やはりそこには、何かしらの打算や損得勘定が入り込んでくるものです。


                   だからといって、結局は自分のためかというと、そうではありません。幾分かは人や組織、地域、社会のためになることもあると思えます。また思えなくても、結果的にそうなっていることはよくあります。

                   また、人のため、地域のためと思うと、自分のための仕事よりも力が出ます。自分のために何かをするより、自分以外の何かや誰かのために仕事をする方が使命感もあるし、張り合いが出るのです。逆に、自分のためだけにする仕事には、どこかしら「むなしさ」が漂います。

                   こうして考えてみると、答はどちらでもないということになるはずです。ある時は自分のため、また別の時には地域のためというように、同じ仕事の中でも自分のためと地域のためが混在するのがよい仕事ではないでしょうか。



                   ちょうど異性(同性でも)と付き合う場合に、「あなたのことで頭はいっぱい、あなたのことばかり考えて生きている」といわれると、うれしい反面、引いてしまうのと同じです。あるときは「相手のため」、あるときは「自分のため」と思って相手と付き合ってこそ楽しいのではないでしょうか。どちらかに偏ると、二人の関係は危うくなるように思います。

                   一貫した自分はいない、あるときは相手のことに一生懸命、ある時は自分の思いや欲望を満たすために相手と付き合う、複数の一貫していない自分があってもよいと思います。常に一貫しているのは「一貫していないこと」です。

                  新説 メディカルツールズム

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                     メディカルツーリズムがメディアで報道されることが多くなった。簡単にその意味を説明すると、居住地以外で医療サービスを受けることである。日本語では、医療観光と翻訳されている。

                     私たちは病気や怪我をすると、医者にかかる。それは生活の中で起きることが基本であるため、生活圏に近い場所にある病院にかかることが普通である。特にプライマリーケアと呼ばれる、一般的な病気や怪我では、身近な家庭医などにまず行くことが多い。逆に、重篤な病気や高度な診断を必要とする場合には、専門医がいる大病院に行く。通常こうした大病院は居住地から離れたところにあることが多く、結果的に生活圏を出て他の街に行くことになる。喜んでというより、仕方なく行く、やむにやまれずという選択である。

                     一方、メディカルツーリズムは「結果的に」遠隔地の病院に行くのではなく、最初に遠隔地にある病院の情報や知識を得ておき、そこで医療サービスを受ける(特に、検診や特定の病気・症状の治療を目指して)ために病院に行く仕組みである。そこには行く側の主体性や選択がある。

                     医療といえば医療だが、身近でも可能な、または身近でサービスを受けることが基本である医療サービスを、わざわざ生活圏外で受けること、つまり医療サービスのために生活圏という境界を越境するのがメディカルツーリズムである。

                     中でも海外に行くメディカルツーリズムが注目されている。その背景には、外国人旅行者の増加が見込める、高度な医療サービス提供による富裕層からの高額医療収入の魅力がある。シンガポールやタイでの患者受け入れ報道は、新聞時事などで頻繁に見ることができる。

                     しかし、メディカルツーリズムのネガティブな面は、例えば以下のように指摘されている(森2013)。
                    1.税金や社会保養制度で維持されている地域限定の医療サービスを無差別に提供して、 負担者と受益者がずれる、
                    2.国外から病原菌などを持ち込む、
                    3.富裕層への医療サービス集中による国内医療の発展阻害などが指摘されている。

                     この指摘からは、特定の医療と観光だけに限った利害関係者でメディカルツーリズムを進めてよいのかという疑問が生まれる。観光と言いながら、医療という自国の社会にとって重要なサービスを左右するので、社会的な議論や合意が必要である。しかし、こうした問題を指摘しても、メディカルツーリズムは、富裕層や高額所得者の生への執着や健康への飽くなき欲望がある限り、今後も拡大するだろう。

                     ここまではごく当たり前の整理である。しかし、この医療と観光が融合したメディカルツーリズムから、ひとつの面白いことが連想できる。観光と医療の仕組みが非常に似ているということだ。

                     観光は観光客と観光対象(資源やサービス)があることで成立する。その二者を結びつける活動が観光である(図1)。観光客は観光サービスを得るために対価を払い、観光地、である非日常空間に移動する。



                     一方、医療はどうか、患者は医療サービスを受けるために病院に行く。そしてサービスを受けることに対して対価を支払っている(図2)。病院は普通の人にとって日常空間ではない。患者は、生活空間から非日常の病院空間に移動し、医療サービスを消費してまたに日常に戻る(ほとんどの場合)。


                     このように考えてみると、観光の仕組みと医療の仕組みはきわめて近い。ホスピタリティとホスピタルは語源が同じだが、医療の仕組みと観光は構造的、システム的に類似点がある。

                     このことを利用して考察できることは多い。例えば医者の選択の問題である。医者を選ぶ際には、医療サービスという本質ではなく、病院の設備や清潔度、アクセスの良さなど、医療サービスのレベル以外の要因で決めることが多い。例えば、出産のために産婦人科に行く場合、そこでの医療サービスの質よりも、出産入院の際の設備の良さや雰囲気、食事の内容が決定要因になっている(少なくとも身近ではそう聞く)。

                     もちろん、こうした本質によらない選択を勧めているわけではない。本質が重要であっても、それ以外の要素で決まることが多い社会現象だと言いたいだけである。しかしだからと言って、本質に対する理解や尊重を忘れてはならないだろう。

                    魅力の源泉である観光資源が失われてしまい、観光に付随する施設や情報だけで観光客を魅惑し続けられる観光地がないことと同じく、医療サービスの源泉である医療技術や技能に対する尊重がない医療の提供もまた、持続可能ではないだろう。

                    <参考文献:9279>森臨太郎(2013)『持続可能な医療を創る − グローバルな視点からの提言』,岩波書店,162p.

                    チーム活動の進め方:メンバーの主張の違いを超えて

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                       地域づくり学習では最近チーム活動がよく使われる。その際に課題が与えられて、チームで解決案をつくる学習が多く試みられる。ところが困ったことに、このチーム活動が楽しくないこともあるのだ。その原因のひとつに、意見が合わずに気まずくなるということがある。

                       実は、チーム活動で意見が合わないケースにはパターンがある。よく見られるパターンは、問題点を指摘するメンバーと、あるべき姿を主張するメンバーに別れてしまうことである。前者の主張は、「問題はこれだからその解決方法を考えるべきだ」ということであり、後者は「理想の姿やビジョンがまず大事」だと主張する。



                       この差を、問題解決が先か理想が先かという、「主義の差」や「個人の生き方の差」に入れ替えてしまうと解決は難しい。しかし、どちらも何とか課題を解いてチームでなんらかのアウトプットを出そうとしていることでは共通している。つまり、現状を改善するアイディアを出そうとしている思いは一緒なのである。違いがあるように見えてそれは、やり方、アプローチの違いではないか。

                       そこで、この問題をアプローチの違いとして考えてみたい。
                       前者の問題解決の提案を先に考えるメンバーは、「こうすれば地域の問題は解決するという提案」を具体的に提示する。次に制限時間の範囲内で実現可能性のある解決策を提案するのが、アプローチである。いきなり具体的な提案となるので、軽率に思えるが、実はその先に現状を観察や把握し、問題を分析していることが多い。

                       一方、後者のメンバーは、理想状態を描き、「こんな地域にしたいね」というイメージや「あるべき姿」を提示する。そしてそのために必要なのはこんなことだという問題解決も意識するので、いわば順番を逆に考えていることが多い。もちろん理想だけの提案や、「あるべき論」にしかなっていない場合は要注意だが。



                       このように考えると両者は同じことをやっていながら、順番が逆であるばっかりにかみ合わないことがわかる。なので、チーム内でそのことがわかっていれば、喧嘩や物別れは防ぎようがあるはずだ。

                       ただし、順番の違いの他にも差はある。前者は問題発見、つまり「悪いとこ探し」からスタートして、批判的になりがち、または第三者目線で見て、問題があるから直してやろうという姿勢になりがちである。一方後者は、理想を追うので、自分を対象地域に没入させ易く、地域の良い点を認めて伸ばしてやろうという発想を持つことができる。つまり主体的に考えることができる。

                       このように考えると、できれば最初に地域の良いところを探して、それがうまく活かせるように工夫する、そしてその障害になっている要因を解決する方が、多少なりとも前向きで、メンバーとしても一緒にやっていて楽しいように思える。問題を見つけて、つまりあら探しをして、その問題を解決することに呻吟するより、チャレンジングでもある。

                       ただし、上記の二者の違いはあくまで思考の順番の差なのだから、リーダーやファシリテーターが意識していれば、うまく組み合わせることもできる。また分業や補完関係を意識すれば、チーム内の軋轢も減るに違いない。

                       このようにアプローチの違いと考えることで、チームメンバーの違いを前向きに捉えることができるだろう。




                      ○蛇足になるが、地域の良い点を見つけるためにSWOT分析や地元学を使えば、地域の良さを先に見つけ出した上で、問題解決策を提案できるだろう。この点で、企業でよく使われるSWOT分析も地域の良いとこ探しには使える。


                      ○チーム活動だけではなく、実際の地域づくりや研究でもこうした傾向は認められる。前者のような方法は、「アクションリサーチ」と呼ばれる方法に近く、解題を見つけて原因を探り、そこから解決策を提案するやり方である。

                       一方後者は、「アプリシエイティブインクワイヤリー」と呼ばれる、自分たちの強みを見つけ出し、理想的な状態を想定した上で、そのための解決方法を探るやり方である。アプリシエイティブインクワイヤリーの方が、やっていて楽しいので、当事者にとっては確かに優れている。しかし、前者の問題発見解決プロセスも、後者の解決策の提案には必要なので、やはり組み合わせを考えることが現実的であろう。
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